第27回

山本文緒著 角川文庫
1999年 本体438円
この著者が登場させる主人公は、たいてい、一見「普通」に社会生活を送っているようにみえて、どこか「危なさ」を抱えている。でも何か、人間ってそんなものかもね、と思わせられるのは、主人公の心の微妙な動きやつぶやきが実に上手くリアルに書き込まれているからだと思う。この本に出てくる、半月後に自殺を考えている女性が、死ぬ前にしたいことを考えて、結局思いついたのが、「好きな男の子と一緒に好きなお寿司をたらふく食べること」。案外そんなものかもしれないなと思った。

森の旅人 ジェーン・グドール著 上野圭一訳 角川書店
2000年 本体1800円
科学と宗教の関係に興味のある人にはおすすめ。野生チンパンジー研究の第1人者である著者が語る神の存在は、説得力があり自然にすっと心に入ってくる。これまで40年間フィールド研究を続け、現在野生動物保護のための運動を積極的に推進している彼女の測り知れないパワーの源は、やはりカミだった。カミとヒトとのよい関係をかいま見た思いがする。

藤森照信著 新建築社
1990年 本体3883円
「住宅」建築家と「公共物」建築家がいるらしい。後者は大きなモニュメント的なものを作る人で、作品が長く残るので評価されやすい。丹下健三さんなんかがこのグループ。前者は個人の住宅を限られた予算で、うるさい注文をさばきながら、自分の理想を表現する人。50年以内に壊される確立が高く、名前も作品も残らない。この「住宅」建築家にスポットを当てたのがこの本。個性的で面白いステキな作品が多くとりあげられている。でも「住宅」建築家というのも虚しいなあ。何しろ生きている間に、自分が設計したすべての「住宅」が壊されてしまう建築家がほとんどなんですから。

前川 健一著 旅行人
2000年 本体1600円
この作品は著者が1980年代に「定住の旅」の旅先としてナイロビを選び、一年弱滞在した時の記録である。定住の旅というだけに、旅をしているというよりも生活をしている感じがあって、著者の人間性とか考え方があちこちににじみ出ていて、旅行本というよりは、エッセーを読んでいる感じがする。
著者の生活圏のナイロビの町の雰囲気、アフリカの空気が読み手の心の中にすっと入ってくる感じがして、なんともいえない気持ちのいい読後感がある。

砂守勝巳著 筑摩書店
1992年 本体1800円
返還前の沖縄。その時代の沖縄を生きた人々の、生き様と現在をまとめたノンフィクション。伝説のバンド「紫」のメンバーもまた、返還前の沖縄でハーフとして生まれたが故の激しい人生を送っている。著者自身も幼い頃に別れたフィリピンン人の父を持ち、再会を果たす。この本には、私の知らないオキナワがあった。

冨田香里著 講談社+α文庫
2000年 本体700円
15歳から15年にわたって繰り返された過食嘔吐。このことを著者が克服するまでにたどった軌跡は、今を生きる女性が、大人になっていく、自分を発見していく過程で、多かれ少なかれ経験することのような気がする。書いてあることの全てに共感するというわけではないが、この本を読んで、自分自身のことを振り返る人も少なくないのではないかと思う。

魚柄仁之助著 ネスコ/文芸春秋
1996年 本体1359円
この人の著書がちょっとしたブームになっているが、私もすっかりファンになってしまった。文章も上手だけど、ポリシーがいいぞ! 「魚柄食生活研究所」の掛け軸にはこうかいてあるそうです。「他力本願」。そうそうこれですがな。人がしてくれることは人まかせ。ぜひともお友達になりたい方です。もちろん料理のヒントも満載ですよ。とくに怠惰かつビンボウな方(わたしです〜)におすすめ。

吉江真理子著 新潮社
1999年 本体1500円
本土から沖縄に嫁いだ女性をヤマト嫁と呼ぶらしい。単純なハッピーエンドにおさまらない彼女たちの生活をリポートしたもの。沖縄を本土とは違う場としてとらえ、ごっつい重い人生ばかりのような描かれ方が気になった。人の体験談を読むのは興味深いけど、沖縄に嫁ぐのはそんなにも重苦しいことなのですか?

スーパーカップル症候群ウェイン・M・ソーティール メアリ・O・ソーティール著 都築幸恵訳
大修館書店 2000年 本体1600円
米国でカップルに対するカウンセリングを専門としてきた著者(夫婦)。長時間労働と家庭生活の両立に疲れ、そのため夫婦関係が悪化してしまうという典型的なパターンについて、問題点と克服法を提示している。常に急いでいて、家庭にも完璧主義を持ち込んでしまう人は、仕事中毒の徴候あり。互いの距離のとり方、ストレスへの対処法など有用な情報が多く、参考になる。

宇佐美 圭司著 平凡社
2000年 本体680円
今、文化遺産や歴史的に重要な建造物の崩壊が世界的に危惧されている。膨大な費用と人の手を使っての修復・復元ももちろん後世に残していくという点では大切なことだと思う。しかし、この本によって廃墟になってゆく過程に見て取れる美しさとか、歴史の中の一過程に存在していた価値といったものがあり、常に完璧な姿を保ち続けることよりも我われの心に感動を与えてくれるんだなと痛感した。旅にでて、単に遺跡を巡るだけではなく、作られた頃の背景とか現在の姿になった過程とかに思いをめぐらせながら見ると、なかなか味わいのあるたびになるのではないだろうか。