第35回

私の旅に何をする

 宮田 珠己著 旅行人 
 2000年 1400円(+税)

宮田珠己は天才だと思う。天才の書く文章は愉快でたまらん。一冊読む間中、笑いのつぼに入りっぱなし。旅行記好きにはもちろん、お笑い修行中の人にも読んで欲しい。この人は、一人でボケと突っ込み両方の才能をもっていると思う。読んでいてもばかばかしい文章なのに隙がない。それでいて旅先の様子が克明に伝わってくる。やはり宮田珠己は天才だと思う。はまっちゃうこと間違いなしよ。

 

  

江戸東京物語ー都心編

 新潮社編 新潮社文庫
 2001年 本体円

 品川で生まれ育った私だが、東京のこととなると、一週間東京見物をした人より知らないかもしれない。ご存じの通り東京は、あしかけ250年ほど日本の政治の中心となっている。桜田門、北町奉行、数寄屋橋、永田町など、有名な地名は多いけど、東京に住んでいると案外行ったことはないものだ。そういう、東京の「公」としての顔とともに、「あんぱん」の誕生秘話など人々のくらしの物語もたくさん紹介している。この本を片手に東京を散歩したら、近現代の歴史が身近に感じられるだろうな。散歩用の地図もついている。

 

世界遺産屋久島の撮り方

 三好 和義著 小学館
 2001年 1600円(本体)

 行ってみたいと思い続けていまだかなわない、近くて遠い屋久島。写真家の三好和義が屋久島の自然を撮った。タイトルが「撮り方」となっているように、写真家に役立つ情報も多いが、ただの旅人にも、屋久島の自然を楽しむガイドブックとして十分利用できる。美しい写真満載で、さらに屋久島への恋心が募ってしまう。

 

転がる香港に苔は生えない

 星野 博美著 情報センター出版局
 2000年 1900円

 香港返還前のこと覚えてますか?返還前の香港に一度は行っておこうと、今から考えると法外な料金を払って出かけた日本人も実に多かったですよね。その時期に2年間香港の下町に住み、そこを定点として書かれたのがこの作品です。普通の香港の人たちについてここまで掘り下げて、書かれた作品は今までなかっただけに、途中で止められず一気に読んでしまいました。日本では起こりえない、返還という2文字に翻弄されても尚、香港に生き続ける人々の姿が脳裏に焼きついて離れない。

 

死に方の上手な人 下手な人

 フレディ松川著 集英社文庫
 2001年 本体495円

 著者は多くの老人の死と向き合ってきた湘南長寿園病院の院長。長年の経験をもとに、今の宗教と医学に対する疑問も率直にあげながら、人間の死について述べたのが、この本である。何だか今は、死んでいく人間の意志よりも、周りの人間の意志が優先されている気がするのだが気のせいだろうか。読んでいると、自分の死に際は、自分で決めたい、そんなあたりまえの気持ちがふつふつと湧いてくる。

 

新編風雪のビヴァーク

 松濤 明著 山と渓谷社
 2000年 1600円+税

 松濤は、1948年12月槍ヶ岳から焼岳の縦走に出発したが、風雪のため北鎌尾根にて遭難。遭難から半年後に遺体で発見された松濤は手帳に遺書を残していた。死を覚悟しているというのに、理路整然とした遺書を残している松濤。死の直前にあまりにも強く理性的でいられる松濤と、常人の生に対する執着を比べるとしたらどんなものかと、しばし考え込んでしまった。遭難時の手記以外に、彼が10年間に登攀した山行の記録がたくさん収められていて山好きには興味深い。

 

喪失の国、日本

 インド・エリートビジネスマンの日本体験記

 M.K.シャルマ著 山田 和訳 文芸春秋
 2001年 1762円

 9億五千万分の一の確率で出会った本というフレーズに思わず手にとったこの本だが、なんとも不思議な始まりでついつい読み進むうちに、辞められなくなった。著者が本当に魅力的な人物で、会って話が聞きたいと心から思った。確かに日本滞在記ではあるが、その中に著者の感性・思想が随所にあり、経済発展こそが最良の道とばかりに走りつづけた日本が手に入れたものは、便利で安全な社会だが、変わりに失ったものが、いかに大きかったかが思い知らされる。不景気で、人間の心まで荒廃の一途をたどっている今、違った観点から自分を或いは自分の国を問い直してみることが、悪循環から抜け出す近道ということを気付かせてくれた。

 

ひかりのあめふるしま 屋久島

 田口 ランディ著 幻冬舎文庫
 2001年 本体533円

 日々の繰り返しに疲れた時、人はふいに「自然」に抱かれたくなるらしい。でも、「自堕落な都会人生活」を送っていた人間が、突如「自然」に抱かれようと思っても、そう事は簡単じゃない。「屋久島」の原生林を一人で歩くとそれが身にしみて分かる。3年にわたって一人で「屋久島」に通いつめた著者が、時には危険を感じ、時には「自然」に裏切られながら、発見した「屋久島」の数々の表情・・。特に、衝動的に「屋久島」へ行ってしまった、または、これから行こうとしている「都会人」に読んで欲しい。

 

ヨーロッパぶらりぶらり

 山下 清著 ちくま文庫
 1994年 550円

 「裸の大将」で有名な山下清のヨーロッパ訪問記。どんなに気分が落ち込んでいる時に読んでも必ず明るい気分にしてくれる。山下清という人の魅力を一言でいうなら、「一筋縄ではいかない人」だろう。無邪気なのかと思えば案外いじわるだったり、素直かと思うとわがままだったり、「頭の悪い子」というのを上手く使っている確信犯くさいところもある。彼の目で見たヨーロッパは、普通のガイドブックで書かれていることとは異なっているが、心の中では同感を覚える人も多いのではないかと思う。赤瀬川原平のあとがきもいい。

 

 

 

ユーコン漂流

 野田 知佑著 文春文庫
 2001年 476円(本体)

 3夏をかけてゆっくりとカナダ、アラスカの川を下った記録。とにかく出会う人々がおもしろい。何かから逃れてアラスカにやってきて住み着いた人、原野に一人で暮らすマウンテンマン。だれもが自然の中で生きていく術を知っている。旅人も何かを求めてアラスカにやってくる。そしてだれにも命令も規制もされない「俺の、俺だけの、俺のための人生」を満喫する。ああ、やっぱりアラスカはいいよ。

 

 

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