第57回(2004年12月)

母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語

久田 恵 著
文春文庫 2004年 本体562円

ライターとしての仕事が漸く軌道にのってきた30代後半、著者のお母さんが脳血栓で倒れる。それから自宅介護を10年−限界を感じた著者はお母さんをシルバーヴィラ向山へ。入居者一人ひとりの思いを大事にする、この老人ホームでの様々な人々との関わりの中で、著者は自分自身や家族との関係を見つめ直していく。肉親というものは、時として肉親であるが故の葛藤を引き起こすものだと改めて思う。他人事じゃない。

 

やぶさか対談

椎名誠、東海林さだお 著 講談社
2000年 1360円

お二人の興味ある著名人を招いての対談集。数人のゲストのなかでも大江健三郎の回が最高。けして堅苦しくはないのに哲学的トークで、思わず氏の著作に手をのばしそうになる。難しいかなー。もう一人ドクター中松の回もベリグッ。惚れ直しました。彼は特別な生物だと思うのよね。

 

密やかな結晶

小川 洋子 著
講談社文庫 1999年 本体686円

いろいろなものが一つずつ静かに消滅していく島で、人々は当然のように失ったものの「記憶」を無くし、何事もなかったように日常生活を続けていく。現実世界にいる我々の分身とも言えるような、「記憶」を失わないごく少数の人々の喜びや哀しみをあざ笑うかのように。またしても、小川洋子さんの世界に絡めとられてしまった。「薬指の標本」に引かれた人にはおススメ。

 

依存症から回復した大統領夫人

ベティ・フォード 著 水澤都加佐 監訳 二宮千寿子 訳
大和書房 2003年 2400円(本体)

米国大統領夫人だったベティは、薬物とアルコールへの依存による問題を抱えていた。最終的に彼女は見事に回復をとげたのだが、実際多くの人にとっては、治療を始めること自体が容易なことではない。最大の壁は、本人が依存症であることを「認める」ことなのだ。信仰の厚い彼女の回復には神が重要な役割を果たしたように見えるが、家族や友人の支えと仲間の絆なしには成功はありえなかっただろう。依存症は、意志の強弱の問題ではなかったのね。これを読むと、他者のみならず自分も含めて人間理解が進むはず。

 

犬と三日月

加瀬 由美子 著 新宿書房
2002年 1800円(本体)

 酒癖が悪く暴力を振るう夫とやっと離婚をした著者が選んだ生活の地は、なんとトルコ。娘が住んでいるとはいえ、トルコ語もできず娘も当てに出来ない独り暮らしをスタートさせたのが52歳の時なのです! その後、次々と日本食レストランをオープンするも、トルコ大地震にあったり騙されたりする不運続き。それでもちっとも暗さを感じさせない著者のバイタリティにただただ脱帽するばかり。私が52歳になったときに、彼女のように攻めの人生を選べるだろうか。

 

中国農村崩壊

李 昌平著 吉田 富夫監訳 北村 稔・周 俊訳
NHK出版 2004年 2200円

日本ではここ数年中国の躍進ばかりが目だって報道されていて、中国は右肩上がりの経済成長に支えられたひたすら成長し続ける国というイメージを日本人の多くが感じているでしょう。しかし、その華やかなイメージの影で中国の農村がいかに危機的状況にあるかを農村の現場から初めて告発した作品であるだけに非常なショックを覚えました。9億人もの農民が重税と役人の汚職に苦しめられ、人間としての最低限の生活すらできない現実はやがて今の改革開放路線に急ブレーキをかけるのではないかとの懸念を抱きます。北京オリンピックにむけひた走る中国のアキレス腱が農村問題だと実感しました。

 

希望のがん治療

斉藤 道雄 著
集英社新書 2004年 本体680円

末期がんで余命僅かと宣告され、現代医療から見放された人の中に、その後、がんが消失したという経験を持つ人がいるという。現代医療と代替医療は、しばしば対立図式で描かれるが、人間本来の持つ力を引き出し、両者の「ええとこどり」をする方法など、がん治療にはもっと幅があるのではというのがこの本。様々な表情を持つ「がん」は、まだまだ分からないことだらけ。「がん」が消失する決定的理由は分からない。だが、人間本来の持つ力も捨てたものではないかもしれない。

 

ダ・ヴィンチコード 上・下

ダン・フラウン 著 越前敏弥 訳
角川書店 2004年 各1800円

小説の冒頭、ルーブル美術館館長が殺害される。彼の残したダイイングメッセージにより、暗号解読官と、宗教象徴学者が現場に呼び寄せられる。二人は事件の謎を解き明かすうちに事件に巻き込まれてゆく。事件の背後には大規模な秘密結社が関係しているようだが…。これぞエンターテイメントって感じ!映画を見ているようで、上下本でも一気に読破。ただ、次々出てくる暗号が、こじつけっちゅうか、作家の自己満足っちゅうか。本格読み物というにはもう少し深みみたいなものがほしいと思うのは私だけ?


「うそつき病」がはびこるアメリカ

デービッド・カラハン著 小林 由香利訳
NHK出版 2004年 2400円

読んでるうちにこれはアメリカの話なのに日本の現代社会そのものじゃないかと思ってしまう。現代唯一の超大国アメリカは政治家・弁護士・医者などの超エリートからごく普通の人までが勝者になることを追求したあまり、平気で不正することでのし上がろうとする不正文化の国になったという。そのアメリカにひたすら追随してきたわが国日本。日本もそれに近くなってきてるなと改めて思った。道徳心を養うとか、正直になるとか、人とのつながりを大切になんて言われてもそんなもの耳にも入らない人ばかりが増えつつある日本。ちょっと立ち止まってこの本を手にして考えてみてはいかがでしょうか?


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