第58回(2005年1月)

父 相田みつを

相田 一人 著
角川文庫 2004年 本体438円

相田みつをさんの作品には、あえて近づかないようにしていた。あまりにまっすぐだから。息子さんというフィルターを通したものならと思ったが、甘かった。ことばを読み飛ばすことができない。心に突き刺さった。上野駅の雑踏で、「今から、おまえは迷子だぞ。」と言って、目的地までの道案内をさせる父と、それに応える小5の息子。その頃と同じまなざしで、父を語る著者がいる。

妻は多重人格

花田深 著 集英社
2004年 1600円

ある日突然始まった、借金取立ての日々。夫のらぬ間に妻が多重債務者に。夜逃げまでして修羅場に追い込まれ、心中寸前まで行くが、妻の様子がかなり変。なんと多重人格で…これがノンフィクションというのは信じ難いような、すごく怖いような。一冊読む中で借金苦の前半も、多重人格発覚の後半もどっちもコワ過ぎ。読む人覚悟しいや、泣くで。

パリ 散歩の時間

藤田 一咲 えい文庫
2004年 本体650円

パリの大きな公園には、数人用のベンチの他に、個人用の椅子もあるという。しかもそれは、「公園内の禁じられた場所以外なら、どこへでも好きなところに持っていって腰かけていい」らしい。そういうことに引っかかりを覚える著者のセンスが、写真にもエッセイにも活かされていて、文字通り、パリを散歩している気分にさせてくれる本。同じ著者の「お茶と写真の時間」(えい文庫・2004年・本体650円)もいい。様々なカメラを使って撮られた様々な写真。カメラを持って出かけたくなる。

無人島に生きる十六人

須川 邦彦 著
新潮文庫 2003年 400円(本体)

明治時代のこと。日本船がミッドウェー島沖で座礁し、16人の船乗りたちは機転と勇気をもって苦難を乗り越えていく。ほぼ半年後に救出されるまで全員元気に生き抜いたという、本当にあったお話。飲み水や塩を作ったり、亀から油をとって灯明にしたり、アザラシと仲良くなったり・・・昔の人々は逞しい知恵者だったのだなと尊敬しきり。現代人ならこうはいかないはず。

 

いとしい

川上 弘美 著 幻冬舎文庫
2004年 533円(本体)

 芥川賞を受賞後に出版されたこの長編小説「いとしい」の粗筋を問われたら「全部暖かくユーモラスで、そしてヘン」と言う。ヘンな設定の中でヘンな話が進んでいくが、だんだんヘンが「ふつう」になっていく。川上さん(あるいは内田百けん先生)しかかけないお話。いとしくてあったかい気持ちになります。

 

日本はどう報じられているか

石澤 靖治編 新潮社
2004年 680円

不況・政治不信・治安の悪化といいことなしの昨今の日本。自分の生活を守ることに精一杯というのが我々多くの日本人の本音かなとう。でもグローバル化が進んだ今の時代、自国のことだけを見ていては何も見えこない。そこで日本という国が他国からどう見られているのかを知りたい時に読みやすく効な一冊です。もちろんアジア・欧米・イスラム諸国では全く違った目で見ているなということが良くわかる。特に面白く読んだのはアメリカでの日に対する報道で、全くの日本の片思いというのが実にぴったりと当てはまると思う。日本の存在感のなさ無害なところが今の日米安定の要素である。アメリカのみを重視している今の日本。多様な国々が共存している世界でこれでいいはずはないという強い思いが残った。

 

チェ・ゲバラの遙かな旅

戸井 十月 著
集英社文庫 2004年 本体533円

1959年のキューバ革命。一つの時代を駆け抜けた、チェ・ゲバラ。ボリビアで67年に殺害された後、長い間遺体は行方不明だった。飛行場の滑走路脇から遺体が発掘され、ボリビアからキューバへ運ばれたのは97年。ついこの間のことだが、その裏にある遠い国々の歴史を、私たちはあまりに知らない。ゲバラという人間の、最もすぐれた資質をジャーナリストに問われて、ゲバラを知る人々は、皆こう言ったという。「人を愛する才能です。」と。そんなゲバラを通して、遠い国々の姿が垣間見える。

 

それでも日本人になった理由

武永賢著 ポプラ社
2001年 1470円

ベトナム難民として、十七歳で日本にやって来た少年が、日本人医師になった実話。ベトナムの現代史を詳細に知ることができる。同年代の人が、ベトナムにいる間も日本に来てからも、過酷な境遇におかれていたことがショックだった。このての本を読む度に、平和がいかにありがたいか、そして脆いものかを思い知る。そして“人”の可能性のすばらしさも心を打つ。


海外ノビノビ印税生活のススメ

柳沢 有紀夫 著
スリーエーネットワーク2003年 1500円(本体)

タイトルに惹かれて手にとった本。著者はオーストラリアに家族で移住し、その体験を本にした人。ついには各国で暮らす人たちに呼びかけて「海外書き人クラブ」まで組織しているやり手。素人が海外生活をネタにいかにして本の出版にこぎつけるか、そのコツを経験もとに教授してくれる。企画の売りこみ方や文章の書き方まで懇切丁寧な内容。これを読めば海外印税生活も夢じゃないかも。

ホテル・ガンジスビュー

松本 榮一著 現代書舘
2003年 1900円

「インドのバナーラス(ベナレス)=ガンジス川の沐浴」と言っても過言ではないほど私の頭の中にこのイメージが定着しています。ガンジス川のガートで繰り広げられる人間の生と死の世界。じっくり腰を据えて書かれた文章と写真から宗教に根ざしたインドの精神世界が見えてきます。特に、「死を待つ家」と呼ばれる建物の中で繰り広げられる人間模様にはインド独自の死生観が存在し、深い衝撃を覚えました。ガートに腰掛けて一度自分の人生と向き合って見たいという気持ちが強く湧いてきました。


このページのトップに戻る  フロントへ