第68回(2006年8月)

万世一系のひみつ

竹内久美子著 文芸春秋
2006年 1429円 

 人も動物も遺伝子を永く受け継ぐために生きている?生物に関する様々な質問に、学術的かつユーモアたっぷりの回答がノンストップで読ませてくれます。動物行動学って、深くてでも結構身近。学問のはずなのに、こんなにも馴染みやすいのは著者の筆力ゆえか!



家庭の医学

レベッカ・ブラウン著 柴田元幸訳
朝日文庫 本体500円

 がんが見つかった母親の亡くなるまでの治療の様子や身体と心の変化を、「貧血」、「薄暮睡眠」、「転移」といった家庭の医学事典に見られるようなキーワードを使った章立てで順に書き綴っていったもの。「介護文学の先駆的な一冊」(訳者)と言い切ってしまうには何か違和感が残る。「介護者」というより一貫して「娘」としての目線で変わりゆく母親の姿を捉えているところが印象的。病の進行の一過程を示す記録としても読む価値がある。



心理療法個人授業

河合隼雄・南伸坊 著
新潮文庫 2004年 400円(本体)

 以前『生物学個人授業』を紹介したが、これは「南伸坊の個人授業シリーズ」の第4弾。南氏のぼやっと見せかけて実は鋭い考察によって難解な内容を身近で理解しやすく料理くれるのは、このシリーズに一貫した特徴だ。今回は河合隼雄氏のほのぼのキャラとの掛け合いが大変愉快。

 

不実な美女か貞淑な醜女か

米原 万里 編 新潮文庫
1998年 本体514円(税別)

 通訳というお仕事にはだれしも尊敬の念をもち、少し語学が得意な人はなりたいとさえ思うのではないだろうか。その憧れの職業についているロシア語通訳者米原さんが、通訳の魅力と恐ろしさを、存分に描き出している。同時通訳の現場を体験した人ならではのエピソードも満載。9歳から14歳の5年間プラハ・ソビエト学校で学び、ロシア語通訳となった米原さんは、ロシア語のみならず日本語の達人でもある。『言葉』に興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。本当に才能豊かな方でした・・・。この本が、彼女の処女作。
 

モネの庭

ヴィヴィアン・ラッセル 文/写真 西村書店
2005年 3800円

 モネが心血注いで愛し、人生の半分を過ごしたジュベルニーの庭。現在も維持され、花々に溢れている。モネの人生と、当時の庭作りの様子、彼の死後荒れ果てた庭の修復のいきさつが興味深い。写真が半分を占める本なので、和みつつじっくりと楽しめる。ああ、ますますジュベルニーに行きたくなってしまった。モネ好き、花好き、庭好きな方には、はずせない一冊。


パンツの面目ふんどしの沽券

米原 万里 著 筑摩書房
2005年 本体1600円

2006年5月25日、米原万里さんは56歳で亡くなってしまった。彼女の著作は、いつも斬新な視点を与えてくれて、期待を裏切らることがない。この本は真にそんな一冊だ。いったい日本人はいつの間にあたり前にパンツをはくようになったのか・・・。他国の人はどうしているのか? 十字架に磔にされたキリストがはいているのは、もしかしてフンドシ?? 誰にも聞けない下穿きに関する疑問が氷解する。これは、単なるエッセーではありません。自分の病状を悟った米原さんが渾身力をこめて後世に残そうとした課題なのです!(これは本当。あとがきにその想いが綴られている)
 昨年の杉浦日向子さんに引き続き私の大切な作家が理不尽な若さでまたいなくなった・・・。



私、なんだか死なないような気がするんですよ

宇野 千代 著
集英社文庫 1999年 457円(本体)

 120歳まで生きると宣言していた宇野千代の絶筆となった作品。この書名は、彼女が亡くなる半年前の発言だという。最期まで前向きに明るく楽しく生きた彼女の生き様がよくわかる。自己暗示的な部分が強いが、それが功を奏しているのも真実。そしてすごいのは自己肯定感。なんでこんなにも自分を愛し、生きることを愛していられるのだろう。

 

明日の記憶

荻原 浩 著 光文社 本体1500円

 広告代理店の営業部長としてバリバリ働いていた男性がある日「若年性アルツハイマー」であることを告げられる。徐々に記憶を失っていくその男性の心の内を描いた小説。自分で今までできていたことが一つずつできなくなっていくことを認め、ありのままの自分を受け容れる−その道は本人にとっても家族にとっても険しく苦しい道に違いない。しかしいつかそれを乗り越えたとき、またこれまでとは違う生きる意味を見出せると信じたい。

 


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