第7回

柳田 邦男 著 文藝春秋
1995年 本体1359円
著者の次男洋二郎君は、中学時代から、視線恐怖、対人恐怖、強迫思考を主訴とする神経症を病む。彼は、何とか自分自身を社会につなげていようと努めたが、25歳の時「一陣の風に乗って空の彼方へ飛翔して」いくように自ら命を絶つ。彼の遺体が自宅に帰った夜、テレビに映ったのはタルコフスキーの映画「サクリファイス」の終わりの場面ー流れたのは、バッハの「マタイ受難曲」のアリア「憐れみたまえ、わが神よ」のむせび泣く旋律だった。「公」の目と「私」の目の狭間で揺れる著者の文章から、洋二郎君の叫びが聴こえるようだ。

宮田 光雄 著 岩波書店
1995年 400円
「星の王子さま」は、読み手の数だけ感じ方があるようだ。好きな章の話をしても違うように、理解の仕方も違う。「それで、どうよかったの」なんて聞かれてもはっきりとした言葉にできない。なんとなく感性で読んで気に入ったとしても心の底に理由はある。それを言葉にできないもどかしさ。そんな気持ちをすっきりと解決してくれた本です。

中村 紘子著 文春文庫
1995年 本体460円
ピアノは、18世紀半ばに登場した歴史の極めて浅い楽器である。にもかかわらず、例えば、中国古来の擦弦楽器、二胡は知らずとも、ピアノは多くの人が知っているし、幾つかの曲、幾人かのピアニストの名は、クラシック音楽に馴染みの薄い人間でも、ああどこかで聞いたことがある、という気になることだろう。ホロヴィッツ、ラフマニノフから、日本最初の音楽家幸田延(のぶ)、日本一のピアニストとしての声望を背景にウィーンに乗り込み、たちまち投身自殺した久野久(ひさ)・・・。私には、一見華やかに見える世界に生きる人たちが「蛮族」というよりも、悩み苦しみを背負った親しい存在に感じられた。ああ一度この人達のピアノ曲をじっくり聴いてみたい、と思う一冊。

かみさまへのあたらしいてがみーChirdren's
Letters to God谷川 俊太郎訳 葉祥明絵
サンリオ 1992年 1200円
アメリカの子ども達が神様に宛てた手紙をまとめたシリーズ(現在4冊)の内の1冊。つたない文で真剣にお願いや質問をしているのが微笑ましい。子ども嫌いの人もきっと楽しめる。訳もすごくいいと思う。「かみさま、おとうとを ありがとう でも わたしが ほしいって おいのりしたのは こいぬです。ジョイス」ね、おもしろいでしょう。

よその子ー見放された子どもたちの物語トリイ・ヘイデン著 入江 真佐子訳 早川書房
1997年 本体1900円
「シーラという子」「タイガーと呼ばれた子」に続く邦訳3作目。先の2作同様、一般学級からはみだした情緒障害等の子どもたちと教師である著者との関わりを描くノンフィクション。月並みに言えば、熱血教師と問題児との格闘の記録なんだけど、私が特に好きなのは、トリイが教師面していないところ(日本の教師と違って)と、常に子どもたちのことで頭が一杯で恋人に去られてしまうあたり。洋の東西を問わず真の理解者を得るのは難しいのですね。

前川 健一 著 講談社
1997年 705円
旅の達人である著者が 1970年代から始めた旅についてのエッセイ&PHOTO&コラムなど旅のエキスがぎっしり詰まった、中身の濃い本です。本の構成も、コラムと写真が文章の中に、うまく組み込まれていて、読み応えのある作品になつています。
なかでも、私は「ひとことの記憶」という、著者が旅先で耳にした言葉を思い出して書いた文章が印象に残っています。思わず考えてしまう一言や、笑い出してしまう様な一言、実におもしろかったです。

下川 裕治 著 徳間書店
1997年 514円
アジアのホテル・バス・鍋・酒・屋台・駅弁という6つのテーマにそって、著者の体験したアジアが書かれています。この本を読んでいると、アジアと一言で言っても、その中身は実に多様で、奥行きの深い所であることを実感します。
たとえば、鍋料理ひとつをとってみても、国によって実に多様で、料理それぞれにルーツがあったり、国民性・風土・習慣等の違いから、もともと同じ料理が全く別のものになってしまうこともあります。それぞれのテーマを読みながら、自分自身が、あたかも著者と同じ様にアジアを歩いているような気持ちになってしまいます。

坂東 眞砂子著 角川文庫
1996年 544円
「山姥」で直木賞を受賞したこともうなずける。構成も文章もすごくうまい。古代伝承を基にした話しだが読んでいると不思議ななつかしいような気持ちになってくる。「土佐は鬼の住む国、死者の住む国」と言われていたらしい。つまり四国は死国。この先を知りたかったら読よんでね。この本を紹介してくれた友人によると「山姥」はもっと面白いらしい。

瀬戸内 寂聴 著 集英社文庫
1997年 495円
三味線作り、櫛作り、きせる作り、など30人の職人さんを著者自身が訪ね丁寧に取材をしている。それにしても職人芸というのはすばらしい! 手間賃を考えたらとてもできないことをやってしまう。職人魂がそれをささえるのだろう。でも、それも限界にきている。弟子のなり手がいないのだ。何百年もかけて磨かれた芸がなくなろうとしている・・・。 「ひとり孤独な自分の道を往く職人」の尊さを知ってほしい。

島村 麻里 著ダイヤモンド社
1997年 1300円
旅行記でもなく、もちろんガイドブックでもない。旅慣れた著者の、旅にまつわる世界の様々なことを書き綴ったもの。所々に旅慣れし過ぎた嫌味な感じが見え隠れするものの、「パック旅行、ツアー旅行なんてもってのほかだ。」と、自由旅行を愛する方なら、実感したことのあるエピソードもたっぷり。最後のほうなんか笑いまくれました。