第12回

いくたびの冬

エヴァン・マクスウェル 著  佐々木信雄 訳
早川書房 本体2200円 1997年

雪山の写真を使った表紙がとても美しい。アラスカを舞台にした恋愛小説。かつて愛し合ったインディアン女性と密猟捜査員の男性が時を経て再会する。見寄りの死など重いテーマを扱っているが、二人の愛憎関係を中心に描かれているために話が行きつ戻りつし、すっきりしない印象を受ける。子孫を残さず死んで行くということの意味を改めて考えた。

 

 

フーテン老人世界遊び歩記

同時代ライブラリー 338 色川大吉 著
岩波書店 本体1100円 1998年

友人の勧めでこの人の本を初めて読んだ。自分のことを"フー老"(フーテン老人)と呼んで、時に客観的に描いているところが楽しい。戦う人民に連帯感を持ち怒ったり感動したり歌ったり、とにかく熱いフー老なのだ。各地で少女の写真を撮って喜んでいるのもほほえましい。笑いのポイントはばっちり押さえ、しかも知性が随所にあふれていて気持ちいい。他の本もぜひ読んでみたい。

 

グレープフルーツ・ジュース

オノ・ヨーコ  南風 椎 訳
講談社文庫 本体648円 1998年

「地球が回る音を聴きなさい。」「呼吸しなさい。」・・・オノ・ヨーコの言葉に従って、ページをめくる。実際にできることと、できないことの区別は問題ではない。いつのまにか身体が解放されて、連続した空間の中を飛んでいる気分になる不思議な本だ。言葉に添えられた、色々な写真家のモノクロ写真も、饒舌でなくていい。

 

 

ひと恋しくて 余白の多い住所録

久世 光彦 著
中公文庫 本体495円 1998年

伊集院静、小泉今日子、太宰治、島田清次郎・・・。会ったことがある、ないにかかわらず、有名、無名にかかわらず、著者が、この人、と思った人々について、半ば独り言のように想いを綴った本。各々、千字強の文章にまとめられているのだが、どれも人間に対する温かな眼差しが感じられる。自分の友人について、こんな風に言葉にできるだろうか。

 

バンコクの容姿

前川 健一著
講談社 1600円 1998年
            

この一冊には、タイの日常生活・社会・習慣・その他何でもがすべて網羅されている。 
だからと言って、内容が薄っぺらいというような事は皆無で、実に、入念なフィールドワークと様々な分野の資料にあたったうえで、書いた文章である事は読者にもすぐにわかるであろう。 
旅が好きじゃないという人でも、同じアジアの中のタイという国を楽しみながら知るにはもってこいのおすすめ本です。                

                   

                                             

「絨毯屋が飛んできた」−トルコの社会誌− 

内藤 正典著
筑摩書房 1100円 1998年

 トルコはアジアの一部でありながら、漠然としたイメージはあっても、どんな国なのかを知る機会はなかなかないと思う。そんな私にとっては、最初に書かれているエーゲ海はギリシャとトルコの間によこたわっている海であるという一文が鮮明に頭の中に残っている。 著者が実際にトルコ側のエーゲ海の町チェシュメに住み書いた、トルコの人々の物語には、同じ文明を持ちながら、国境線というもので隔てられた人々の存在が描かれていて、国境というものが身近に感じていない私には非常に考えさせられる一冊でした。     

              

幻の「東突厥斯坦共和国」を行く

入谷 萌苺 著 
東方出版 1545円 1996年 

 中央アジアの辺りって地理も歴史も、ややこしい土地柄であるということはなんとなくわかっていたつもりだった。でも、こんなにも抑圧された人々が存在するのは想像もしなかった。 著者のものおじしない行動力が文章に表れていて、読むうちにぐいぐいと東突厥斯坦への旅に引き込まれていった。めったに知り得ることのない地域の内情が興味深い1冊でした。

 

 

雲を眺める旅−アラスカの川辺から−

野田 知佑 著
本の雑誌社 1600円 1996年

アラスカの川辺にも、人は住んでいて素朴だったり、孤独だったり。モノクロ写真にそんなに長くない文章がそえられている。一見気難しい感じの著者だけど、旅先で出会った人たちや、友人たちに注がれる眼差しに、うまく言い表わせないけれど、やさしさ信頼などの愛情を感じる。

 

 

オーロラの大地 アラスカの12カ月

相原 なおみ 著 
ビジネス社 1600円 1995年 

このところ2、3年旅してみたくてしょうがないアラスカ。その気持ちをますます強くさせた1冊。文化、自然はもちろんだけどなによりも、著者の実生活の様子を読むつれてアラスカへの思いが心のなかで騒ぎだした。大自然にばかり憧れていたけれど、やっぱり人も暮らしていてそうなるとやっぱし深い歴史があるってことよ。この本には、旅する前に出会うことができて本当よかった。

 

人は死ねばゴミになる

伊藤 栄樹 著 
小学館文庫 476円 1995年

著者は元検事総長。在職中に末期の盲腸ガンが発見された。闘病記というのは何冊か読んだが、この本が一番感銘をうけた。仕事に対する情熱と病気に対する冷静な判断。自分の治療に関してはどんどんと意見を述べ、自ら判断をする。そして奥さん「康ベエ」(妻 康子さんのこと)への深い思いやり。「人は生きたように死んでいく」と何かで読んだが、伊藤氏がどういう信念で巨悪と闘っていたか分かるような気がする。

 

筒井 康隆 著 
新潮社 2200円 1998年

独り暮らしの元大学教授の日常生活を描いた、著者14年ぶりの書き下ろし。この本を読んでなんだか歳を取るのが恐ろしくなった。描写があまりにもリアルなので老後の生活はこんなではないと否定もできない。食事がなによりの関心事になりお金の残りを数え、昔の映画を何度もみる。とても淡々としていて途中であきてしまったが、まさにこれが老後なのかもと思った。筒井氏の構成力のすばらしさよ!

 

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