第20回

稲越功一著 毎日新聞社
1999年 2400円
写真家のアジアの旅。本の中に納められた写真の一枚一枚が実に見ている者をひきつける。特に私は写真に写っている人物の表情が大好きで、何度も頁をあちこちしながら自分もアジアにいる気分に浸ってしまい、すっかりアジア周遊の旅を満喫した。
写真の持つ力を改めて再確認した次第。タイの水上マーケットなどは、人の声や喧噪までもが耳に聞こえてくるような錯覚に陥り、思わずバンコクにワープした気分になりました。

鈴木真理子著 草の根出版会
1998年 2200円
私たちは自分の国に住んでいる限りは、戦争・内戦・飢餓・地雷等で苦しむ人々が世界中に存在していることを意識することは、あまりない。しかし、今この瞬間にも命をおとしてゆく人々がいるという現実を知ることが重要である。そのうえで、自分にもできることは何かないのかと考えたときに、この本を手にとって見てほしい。普段聞きなれているボランティアという言葉の本当の姿が見えてくる。
旅をして知る世界とは違う世界についても知り、係わりを持つことに積極的になりたい。

有吉玉青著 新潮文庫
1992年 本体400円
私は有吉佐和子の作品が大好きだ。すばらしいストーリーテラー、天才作家である。しかし、もし「彼女」が私の母だったら・・。天才有吉佐和子に「あなたは天才なのよ」といわれて育てられた一人娘。この本は、「天才作家を母に持った有吉玉青」の処女作だ。二十歳の娘にとって偉大すぎる作家・有吉佐和子がライバルであるはずもないが、「母」となると話がちがう。母というのは娘にとってのりこえるべき目標であり最大のライバルなのかもしれない。1人のこどもが大人になっていく過程を描いた、ボーボワールの「少女時代」にも匹敵するすばらしい作品だ。やっぱり「天才の子は天才」ということか。あーあ。

丸山 昭著 小学館文庫
1999年 476円
著者は「手塚」番をつとめ、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など多数の漫画家を育てあげた編集者。漫画家たちの梁山泊「トキワ荘」での若き才能たちの活気に満ちた日々。毎日が楽しかっただろうなあ。その中でもやはりすごいのは、手塚治虫。超売れっ子の手塚氏は月平均312ページ(つまり日に10ページ!)を書き、原稿が間に合わないと、手はマンガを描きながら、口では別の連載のセリフを話し編集者に書き取らせるという信じられない芸当をしていたらしい。その上医学試験にパスし医学博士にまでなるんだから、すごい!! そして、やはり忘れてならないのは才能を育てる人の存在(編集者)ですね。

アユとビビ 京おんなのバリ島大村しげ著 新潮社
1997年 本体1500円
京ことばで書かれた文章が不思議な雰囲気。魅力的なアユという少女への著者の親愛の情が文面にあふれている。外国暮らしなど考えたこともなかった著者が、バリ島に魅せられて、旅行者から生活者へと移行していく過程が新鮮な驚きをもって描かれていておもしろい。

I
Know
War -アレン・ネルソンの「戦争論」アレン・ネルソン講演を記録する会 編 かもがわ出版
1999年 本体450円
沖縄の米軍基地撤廃にむけて闘っているネルソン氏の講演録。海兵隊員としてベトナム戦争に従軍した時に思いがけない体験をしたことで、戦争に疑問を感じるようになる。生命に対する畏敬の念に裏打ちされた彼の言動は、人間への愛情が感じられ説得力がある。日本語訳付。

江藤 淳著 文藝春秋
1999年 本体1000円
筆者の日常には、恐らく何百、何千人の人びとの存在があっただろう。でも今この本を読むと、筆者が心を開き、あるいは自分の存在の確証を得ていた相手はただ一人、妻慶子さんだけだったのではないかと思う。そして筆者は、彼女の死を迎えるまで二人がいた、日常と切り離された生と死の時間に、その死後一人取り残されたまま、そこから再び日常へ戻ることができなかったのではないかという気がする。恐ろしいほど孤独だったろうなと思った。

岩田隆信著 角川文庫
1999年 本体600円
岩田規子著 小学館文庫
1999年 本体495円
ある夜たまたまつけたテレビで、自ら悪性脳腫瘍に冒されたある脳外科医の、病が進行していく姿とその生活を追ったドキュメンタリー番組を見た。その数日後、深夜の再放送を、また見てしまった。まさにその脳外科医が岩田隆信さんであり、その妻が岩田規子さんである。自分は「けっして脳腫瘍と真っ向から闘う強さをもった人間ではない」と言われたという岩田さんが、自らの体験を記録として残そうとした想い、また、そんな岩田さんとともにあった規子さんの想いがまっすぐ伝わってくる。

妹尾河童著 講談社文庫
1999年 本体各600円
まるで著者お得意の俯瞰図のように、こつこつと「描かれた」文章だ。「自伝的長編小説」ということだが、きっとこんな会話がかわされたのだろうなと妙に納得してしまうほど、場面場面がリアルである。人一倍の好奇心、正義感、負けん気、率直さを持った少年Hの目を通して見た一つの時代。著者はきっと今、この本を書いておかなければ気がすまなかった(?)んだと思う。

熊沢健一著 マガジンハウス
1999年 本体1500円
妻に癌告知する立場に立った医師の手記。告知される立場でばかり考がちだけど、告知するにせよされるにせよ現実問題としてのシビアさが胸をしめつける。泣けて泣けて、でも一気に読まずにいられない。ノンフィクションゆえだからかなぁ。読後、自分の問題として考えずにはいられない。

灰谷健次郎著 理論社ライブラリー
1997年 本体1333円
沖縄本島西南に位置する慶良間諸島渡嘉敷島が舞台の小説。自然も人々の心も豊かな島の様子が余すところなく描かれている。登場人物の「島に恋してる」のセリフは著者の気持ちそのものかな。そして私も全く同感さぁ。題名のニライ・カナイは沖縄に伝わる伝説の楽園。私には慶良間こそが楽園なんだけどな。